はじめに:VPN機器が攻撃の標的に
2025年から2026年にかけて、セキュリティ業界で大きな転換期を迎えています。 テレワークの普及に伴い、多くの企業がVPN機器の導入を進めてきました。 しかし、その一方で、VPN機器への攻撃が劇的に増加しているのです。 実は、2025年上半期にランサムウェア被害に遭った企業の感染経路の6割以上が、VPN装置だったのです。
なぜVPN機器はここまで狙われるようになったのでしょうか。 その背景には、SSL-VPN に関する脆弱性の多さと、パッチ運用の困難さがあります。 本記事では、企業のセキュリティ担当者が知っておくべき、SSL-VPN脆弱性の実態、脆弱性情報の読み方、そして効果的なパッチ運用の基本を詳しく解説します。
⇒【ロリポップ!固定IPアクセス】 月額490円、すぐに使えて最大2ヶ月間無料!
SSL-VPN とは:テレワークに欠かせないネットワーク技術
SSL-VPN の役割
SSL-VPNは、インターネット上に仮想的なプライベートネットワークを構築する技術の一種です。 テレワーク時代において、自宅や外出先から会社の社内ネットワークに安全にアクセスするために、多くの企業が採用しています。 通常のインターネット回線を使いながら、あたかも会社のオフィスに接続しているかのような、安全な通信環境を実現できるのです。
SSL-VPN の主要ベンダー
SSL-VPN市場では、フォーティネット(Fortinet)の「FortiGate」が大きなシェアを占めています。 その他、Cisco、Palo Alto Networks、Arista Networks などのベンダーも主要なSSL-VPN製品を提供しています。 これらのベンダーは、テレワーク対応の需要拡大に伴い、急速にシェアを伸ばしてきました。
SSL-VPN が脆弱性の温床になる理由
複雑なコード ベース
SSL-VPN機器は、多くの機能を詰め込んだ複雑なソフトウェアです。 ファイアウォール機能、ユーザー認証、ルーティング、ログ管理など、複数の機能が統合されています。 機能が増えるほど、バグや脆弱性が潜みやすくなるのです。
インターネット上に公開される
SSL-VPN機器は、テレワーク従業員がインターネット経由でアクセスするため、必ずインターネット上に公開されます。 つまり、世界中の攻撃者から「見える」状態です。 ローカルネットワーク内のシステムと異なり、外部からの攻撃に常にさらされているのです。
認証情報の重要性
VPN機器への不正アクセスは、企業ネットワーク全体への侵入を意味します。 攻撃者にとって、VPN機器の乗っ取りは「社内ネットワークへの特等席」を手に入れることと同じです。 したがって、攻撃者の動機が非常に強いのです。
運用環境での制約
VPN機器は、テレワーク従業員が常に利用する本番環境です。 頻繁に再起動できず、パッチ適用のタイミングに限界があります。 そのため、脆弱性が判明しても、すぐにパッチを適用できない場合が多いのです。
SSL-VPN 脆弱性の実態:2024年から2026年
脆弱性発見の頻度
フォーティネットが公表したSSL-VPN関連の脆弱性は、同じ期間のIPSec-VPN と比べて圧倒的に多いのです。 2024年から2025年にかけて、フォーティネットは、CVSS における「重要」と「緊急」の合計で6件のSSL-VPN脆弱性を公表しました。 同じ期間、IPSec-VPN(もう一つのVPN技術)では、わずか1件でした。
この差は、SSL-VPN の複雑性を如実に物語っています。
CVSSスコアとは
脆弱性情報には、「CVSSスコア」という重要度を示す指標が付与されます。 CVSSは「Common Vulnerability Scoring System」の略で、0~10の数値で脆弱性の深刻度を示します。
スコアの目安は以下の通りです:
9.0~10.0:緊急 脆弱性を放置すると、企業は大損害を被る可能性があります。 発見から数時間以内のパッチ適用が必要です。
7.0~8.9:重要 深刻な被害を受ける可能性があります。 発見から数日以内のパッチ適用が必要です。
5.0~6.9:中程度 ある程度の被害が予想されます。 パッチ運用スケジュールの中での適用が必要です。
3.0~4.9:低 軽度の被害が想定されます。 定期的なパッチ適用時に含める対象です。
0.0~2.9:軽微 問題がほぼ無視できるレベルです。 優先度は低いですが、すべてのパッチを適用する方針なら対象になります。
脆弱性の種類
SSL-VPN で報告される脆弱性は、多岐にわたります。
認証回避: ログイン画面を迂回して、未認証のアクセスを許してしまう脆弱性です。 CVSS スコアが高くなりやすく、最優先で対応すべき脆弱性です。
RCE(リモートコード実行): VPN機器上で任意のコマンドを実行される脆弱性です。 攻撃者は、VPN機器を完全に乗っ取ることができます。 これも最優先対応です。
SQLインジェクション: VPN機器の内部データベースに対して不正なSQLコマンドを実行される脆弱性です。 ユーザー情報や設定情報が流出する恐れがあります。
クロスサイトスクリプティング(XSS): VPN機器の管理画面に悪意のあるJavaScriptを注入される脆弱性です。 管理者のアカウントを乗っ取られる恐れがあります。
企業のセキュリティ戦略に大きな転機:SSL-VPN廃止の動き
フォーティネット の廃止予定
2025年、セキュリティ業界に衝撃が走りました。 フォーティネットが、SSL-VPN トンネルモードを廃止することを発表したのです。 具体的には、FortiOS 7.6.3 以降で SSL-VPN トンネルモードの機能削除を予定しています。
これは単なる新機能の廃止ではなく、テレワーク環境全体のセキュリティ戦略の転換を意味しています。
IPSec-VPN への移行推奨
フォーティネットは、SSL-VPN の代わりに IPSec-VPN の導入を推奨しています。 IPSec-VPN は、より古い技術ですが、セキュリティの観点からは、脆弱性が少なく、より安定しています。 実際、前述の統計で、IPSec-VPN の脆弱性数が SSL-VPN より圧倒的に少なかったのです。
サポート終了の時期
FortiOS 7.4 系は、2026年5月頃にサポート終了が予定されています。 企業にとって、これは大きなマイルストーンです。 それまでに、SSL-VPN から IPSec-VPN への移行を完了させる必要があります。
パッチ運用の基本:効果的な脆弱性管理
パッチ運用とは
パッチ運用とは、脆弱性が報告された際に、その脆弱性を修正するソフトウェアアップデート(パッチ)を適用するプロセスです。 VPN機器の場合、適切なパッチ運用ができるかどうかが、企業のセキュリティを大きく左右します。
短期対策:脆弱性情報の把握と迅速なパッチ適用
脆弱性が新たに発表されたら、まずは以下の情報を収集します:
脆弱性 ID(CVE番号): 国際的な脆弱性データベースに登録された一意の識別番号。 例:CVE-2025-1234。
CVSSスコア: 脆弱性の深刻度を示す数値。 7.0以上なら「重要」以上として、優先的に対応します。
影響を受けるバージョン: パッチ適用の対象となるソフトウェアのバージョン。 自社のVPN機器が対象に含まれるかどうかを確認します。
パッチのリリース日: 修正プログラムがいつ公開されたか。 リリース直後のパッチには、予期しない問題が含まれる可能性があるため、数日間の監視期間を設けることを推奨します。
中期対策:認証情報の厳格管理と多要素認証
VPN機器への不正アクセスの多くは、弱いパスワードや流出した認証情報を使用して実行されます。
以下の対策を実施してください:
複雑で長いパスワード: 英数字と記号を混在させ、12文字以上の長さを確保します。
パスワード変更の定期化: 3ヵ月ごと、または半年ごとにパスワードを変更します。
多要素認証(MFA)の導入: パスワードに加えて、ワンタイムパスワード(OTP)や生体認証を要求します。 これにより、攻撃者がパスワードを知っていても、VPN機器にアクセスできなくなります。
VPN管理画面専用アカウント: 通常の業務アカウントではなく、管理者専用の別アカウントを作成し、それを使用します。
長期対策:通信の監視と異常検知
脆弱性への対応には、パッチ適用だけでなく、攻撃の早期発見も重要です。
以下の監視体制を構築してください:
ログの収集と分析: VPN機器のログをSIEM(セキュリティ情報・イベント管理)ツールに送信し、異常なアクセスパターンを自動検知します。
異常ログの例: 短時間に大量のログイン失敗が記録される。 通常と異なる時間帯からのアクセスが増える。 管理画面への不正なアクセス試行が増加する。
異常検知ルールの設定: これらの異常パターンを自動検知するルールを定義し、アラートが発生したら即座に調査できる体制を整備します。
IDS/IPS(侵入検知・防止システム)の導入: VPN機器の前段に配置して、既知の攻撃パターンをリアルタイムでブロックします。
セキュリティ対策評価制度への対応
経済産業省の新制度
2024年から2025年にかけて、経済産業省は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」を推進しています。 この制度では、ネットワーク機器の脆弱性管理やパッチ適用を、厳格な基準で求めています。
VPN機器に求められる対応
この制度への対応として、VPN機器に関しては、以下の基準が要求されます:
脆弱性情報の取得: ベンダーのセキュリティアドバイザリをリアルタイムで監視し、新たな脆弱性情報を即座に入手できる体制。
パッチ適用計画の策定: 脆弱性の深刻度に応じた、適切なパッチ適用スケジュールの作成。
パッチ適用の記録: パッチを適用した日時、バージョン、テスト結果などを、文書として保管。
設定の定期的な確認: セキュリティ設定が正しく維持されているかを、定期的にレビュー。
対応できていない企業のリスク
セキュリティ対策評価制度に対応していない企業は、サプライチェーン上で要求不十分と判定される可能性があります。 特に、大手企業との取引を考えている中小企業は、この制度への対応が取引の条件となりつつあります。
ゼロトラストセキュリティへの転換
VPN時代の終焉
前述の通り、2026年は「VPN時代の事実上の終焉」と呼ばれています。 これは、テレワークセキュリティの考え方の大転換を意味しています。
ゼロトラストとは
ゼロトラストセキュリティは、「ネットワークの内外を問わず、すべてのアクセスを信頼できないものと見做す」という考え方です。
従来のVPN: 「VPN経由でアクセスすれば安全」という仮定のもと、VPN内部のアクセスは信頼していました。
ゼロトラスト: 「VPNでも社内ネットワークでも、すべてのアクセスは検証・認可の対象」という考え方です。 個別のアプリケーションへのアクセスを、ユーザー認証、デバイスチェック、振る舞い分析などで厳密に制御します。
ゼロトラスト実装の例
マイクロセグメンテーション: ネットワークを小さな単位に分割し、それぞれに対してアクセス制御を設定します。
クライアント認証の強化: VPN接続時だけでなく、個別のアプリケーション利用時にも多要素認証を要求します。
デバイスの健全性確認: アクセス許可を与える前に、そのデバイスが企業のセキュリティポリシーに準拠しているかを確認します。
企業が今すぐ実施すべきVPNセキュリティ対策
即座に実施すべき対策(今月~1ヵ月以内)
脆弱性情報の把握: ベンダーのセキュリティページに登録し、脆弱性情報を定期購読します。
パッチの確認: 現在使用しているVPN機器のバージョンを確認し、利用可能なパッチがあるかチェックします。
パスワードの見直し: VPN管理画面のパスワードが十分に複雑であり、定期的に変更されているかを確認します。
短期的に実施すべき対策(1ヵ月~3ヵ月以内)
パッチ適用テスト環境の構築: 本番環境を直接変更する前に、テスト環境でパッチの動作を確認できる仕組みを整備します。
多要素認証の導入: VPN管理画面と、可能であればVPN接続時にも多要素認証を実装します。
ログ監視の開始: VPN機器のログを集約し、異常なアクセスパターンを検知できる体制を構築します。
中長期的に実施すべき対策(3ヵ月~1年)
ゼロトラストセキュリティの検討: 現在のVPN依存のセキュリティ体制から、ゼロトラストアーキテクチャへの段階的な移行を計画します。
次世代VPN技術への移行準備: IPSec-VPN や、更に新しいVPN技術への移行を検討し、実現可能な移行計画を作成します。
セキュリティ対策評価制度への対応: 経済産業省の「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」に対応できるよう、脆弱性管理と設定管理のプロセスを確立します。
固定IPで安全なアクセス環境を実現するなら「ロリポップ!固定IPアクセス」
SSL-VPN などのVPN機器による脆弱性リスクに直面している企業も多いことでしょう。 特に、企業システムへのIP制限が必要な場合、固定IPアドレスの取得は必須です。
ロリポップ!固定IPアクセスは、既存のインターネット回線をそのまま活かし、安全に固定IPアドレスを利用できるVPNサービスです。 月額539円(税込)から、初期費用0円・最大2ヵ月無料で始められます。 WireGuardによる高速接続で、VPN特有の速度低下も気になりません。 複雑なVPN機器の運用が不要で、クラウドベースのシンプルなサービスとして提供されています。 企業システムやクラウドサービスへのアクセス制御が必要な場合、プロバイダ乗り換え不要で、申し込んだその日から利用できます。